こころの病気になるって、他人事?

ネット上でも、TVや新聞など従来のメディアでも、こころの病気、メンタルヘルスの情報があふれています。

世界精神保健調査では、日本人において、生涯で一度でも精神疾患に罹患する人は、少なくとも4人に1人とされています。この一年間で精神疾患を抱えている人の数も、10人に1人以上となっているようです。このように、こころの病気になることは、他人事とは言えないようです。

発達障害と診断される人も、10人に1人を超えると言われています。診断されていない、発達障害の特性を持つ人はおそらくその2倍以上と思われ、自分もそうかなと思う、という話題は日常にあふれつつあり、少数派のイメージではなくなったように思います。


トラウマって何だろう?

近年は、複雑性PTSDや逆境的小児期体験という、トラウマ(心的外傷)に関連した言葉を耳にするようになりました。トラウマがこころの病気と関係があるのはイメージしやすいと思いますが、小児期のトラウマが身体疾患の発症にも影響する、という公衆衛生のデータが明らかになったことで、トラウマの予防や治療が、国家レベルの政策で重視されるようになってきました。

私たちのように、こころの相談を専門に行っている者も、生活で困難な状況にぶつかったり、傷ついたり疲れ果てたりする、ひとりの人間です。

こころの傷つきは、誰にでもあるもので、日常生活の中で得られる繋がり・サポートの中で回復していくものであって、専門家が特別な関わりをする必要がない、というのが本来の姿かもしれません。

でも、やっぱりどうにもならないくらい大きな困難の場合は、立ち尽くして絶望し、回復の道を一歩すすむこともままならない、ということもあるかと思います。

また、何らかの相談をしてみたものの、かえって傷ついたり、助けを求めてもうまく行かない、という経験で、ひとりで抱え込んだままの方も多いように思います。

そんな時には、経験豊富なガイド役がいると、困難な道に見えても、一歩ずつ進むと希望が見えてくる、乗り越えることができる、という可能性が高くなります。


専門家は何をしてくれるのでしょうか?

精神科の診療や相談は、身体の臓器としての脳の状態を見極めたり、脳を基盤にして動いているプログラムが適切か、身体全体の連携がうまく働いているか、そしてその人を取り巻く環境がどのように影響しているか、など、こころとからだを取り巻くネットワーク全体を扱う診療や相談、と私たちは考えています。

脳の状態を判断して薬物により変化させる試みは精神科医、こころの働き・脳に入っているアプリケーションを扱うのが心理士、生活環境の枠組みを見立てて扱うのがケースワーカー、生活の中で必要な心身の機能を維持・回復する具体的方法を扱うのが作業療法士、というのが、精神医療に関係する専門家の役割の大まかな分かれ方になっています。これらの役割は、明確には分けられず、相互乗り入れの部分があります。また、医療機関のほかの専門職の方々、専門職ではない方々、そして関わるすべての方々が、何らかの形で繋がっており、重要な役割を果たされる可能性があります。

何と出会い、どう行動するか、考えるかなどと、生活すべてが繋がっていて、こころとからだが反映されている、と言えるかと思いますが、その様子を解説したり、扱い方の選択肢を挙げたり、といったサポートを、専門家はしているように思います。


トラウマから回復する方法って何だろう?

望んでいるような生活になっていない、という場合、考え方や生活のあり方にズレや歪みがあっても気づかず、繰り返し同じパターンの動きをしている部分があると考えられます。

このような、悪循環から抜けだすための手掛かりとして、トラウマインフォームドケア、という、ご自身に生じている困りごとについて、トラウマの視点から理解し、不必要に傷を深めないようにして、傷が回復するのをサポートする考え方、があります。発達障害の概念と同じように、一般に広く知られることにより、生活しやすくなる方が増えるのでは、と考えて、広める活動されている専門家がおられ、書籍などの情報が得られるようになってきました。

こころの傷に関係した症状があるときに、何が自分自身に起こっているのかを理解し、困った状況を乗り越える・やり過ごす工夫をご自身に合った形で探したり、傷ついた経験を生かして成長につなげる、といったことを模索していくような、専門的なアプローチもあります。

たった数十分から数時間の面談や相談で何か変わるのか、と思われるかもしれませんが、行動の仕方や考え方が少し変化するだけでも、大きな変化を生み出すことができます。

逆に、面談や相談が副作用を生み出す場合もありますので、専門家が安全を期する姿勢も大切です。

お互い意見や疑問を伝えられる関係、を心がけたいと思います。